クラウドファンディングが分離課税に?課税金額の差はこうなる!
クラウドファンディングが分離課税に?課税金額の差はこうなる!

投資であれ商売であれ、利益が出ている以上は税の負担が発生します。近い将来にはクラウドファンディング業者を含む証券会社などにマイナンバーを提出する事が義務化される予定で、そうなれば誰がいくら投資しいていくら利益を上げているか、ガラス張りになるわけです。
さて、投資による利益にかかる税と言えば思いつくのは所得税ですが、所得にはいくつの種類が有るのかご存知でしょうか。
答えは10種類。利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得です。このうち、クラウドファンディングによる利益は、一般的には雑所得に該当し、その課税方式は総合課税と呼ばれています。
このクラウドファンディングの課税方式を、株や投資信託などの利益と同じ、分離課税にしようという動きがあります。もし分離課税になるとどのように変わるのか、課税方式の変更がクラウドファンディングに何をもたらすのかについて、見ていくことにしましょう。
目次
分離課税と総合課税とは
まずは、分離課税と総合課税の違いについて説明します。
分離課税になるもの、総合課税になるもの

分離課税:他の所得とは合算せず、それ単独で課税する方法
総合課税:対象となるいくつかの所得を合算して課税する方法
分離課税はさらに、確定申告が必要な「申告分離課税」と、源泉徴収で課税関係が完結する申告不要の「源泉分離課税」に分けられます。詳しく見ていくとそれだけで一記事になってしまうほど複雑なので、以後の説明では今回の話題に関係するところだけ掻い摘む事にします。
さて、世の中には色々な職業がありますが、ここでは例としてサラリーマンの兼業投資家や、個人事業主の兼業投資家の例を考えてみましょう。こういった方の所得は、分離課税となるもの、総合課税になるものの二つに分ける事ができます。
○分離課税になるもの:
預貯金の利子、株・投資信託・債権の配当や利益、FXの利益
○総合課税になるもの:
サラリーマンの給与、個人事業主の事業所得、クラウドファンディングの利益
ここで重要なのは、同じ投資による利益に対する税であっても、株・投資信託・債権・FXの利益と、クラウドファンディングの利益では、課税方式が異なるという事です。給与の収入やクラウドファンディング利益はそれぞれ総合課税となりますので、この二つの所得は合算して課税されることになります。
総合課税のデメリット

では、雑所得で総合課税となる事のデメリットとは何でしょうか。
大きく分けて4つあります。一つ一つ、簡単に見ていきましょう。
1.「本業の収入と合算され、高収入であるほど税率が高くなる(累進課税)」
総合課税の税率は、収入から控除(給与所得控除や社会保険料控除、生命保険料控除、寄付控除etc)を除いた課税所得の金額により、税率が決定されます。
この時、課税所得がより多くなれば、その部分の税率が上がります。これを累進課税といい、その最高税率は実に45%です。
一方で、株などの配当や利金は分離課税され、税率はいくら高くなっても20.315%で固定です。総合課税の実効税率を実際に計算すると、課税所得1,200万円を超えたあたりで実効税率は20.315%を超え、分離課税との逆転が起こります。
2.「総合課税は住民税も高くなる」
実は見落としがちなのがこれです。株や投信などにかかる分離課税の20.315%の中には、住民税5%が入っていますので、分離課税で税を納めた後に住民税が追加でかかることはありません。
ところが、総合課税の場合は(いくつかの控除はあったとしても)課税所得が高くなれば住民税も比例して高くなります。しかもその税率は10%、分離課税よりも高い税がかかるのです。
総合課税の場合、先ほどの累進課税による税率の上昇に加え、課税所得に比例した住民税が追加されることで、分離課税よりも高い税負担となってしまいます。
3.「雑所得以外との損益通算ができない」
雑所得の損益は、雑所得以外との通算ができません。
つまり、株や投信が赤字、クラウドファンディングが黒字になったとしても、クラウドファンディングの黒字分は相殺されず課税されます。逆に、クラウドファンディングが赤字になっても、給与所得との相殺もできません。
株や投信、FXの損益がお互いに通算できることと比べると、雑所得というのはそれだけで負担が重くなる税制なのです。
4.「過去の損失との繰越控除ができない」
株や投信、FXであれば、ある年に100万円の赤字、次の年に100万円の黒字が出たような場合、今年の黒字と過去の赤字を相殺することができます(最大で過去3年分)。これにより、浮き沈みの激しい投資において、税負担をある程度平滑化することができます。
ところが、雑所得にはこの制度がありません。今年の黒字は、過去に赤字が出ていても関係無く課税されます。これもまた、負担の重い税制の一つです。
課税額の差の具体例
では、実際に総合課税と分離課税でどの程度の違いがでるのか、試算してみましょう。
モデルケースでの試算

モデルケースとして、以下の条件を設定します。簡単にするため、扶養控除とか生命保険などの控除はざっくり切り落としました。
年齢・職業 | 40歳代のサラリーマン(介護保険料負担有り) |
給与収入(額面) | 500万円(夏冬賞与合計4ヶ月) |
クラウドファンディング収入(税引前) | 500万円 |
他条件 | 扶養家族無し、生命保険無し、寄付控除無し |
この場合、クラウドファンディング投資が総合所得である現税制と、もしも分離課税になった場合との税負担はおおよそ以下のようになります。
(注:正確には所得税と住民税の課税所得の計算は異なるとか、住民税には均等割があるなど正確ではない点がありますが、簡単のため省かせていただきます)
項目 | 総合課税の場合 | 分離課税の場合 |
収入 | 給与収入500万円+雑収入500万円=1,000万円 | 給与収入500万円+分離課税500万円=1,000万円 |
分離課税の徴収金額 | 0円 | 1,015,750円(500万円×20.315%) |
給与所得控除 | 1,540,000円 | 1,540,000円 |
社会保険料控除 | 570,000円 | 570,000円 |
基礎控除 | 380,000円 | 380,000円 |
課税所得 | 10,000,000-1,540,000-570,000-380,000=7,510,000円 | 5,000,000-1,540,000-570,000-380,000=2,510,000円 |
所得税 | 1,091,300円 | 153,500円 |
住民税 | 751,000円 | 251,000円 |
可処分所得(収入-社会保険-税金) | 10,000,000-570,000-1,091,000-751,000=7,588,000円 | 10,000,000-1,015,750-570,000-153,500-251,000=8,009,750円 |
総合課税は分離課税に比べ、40万円以上も重い税負担(可処分所得が少ない=税負担が大きい)となります。
総合課税の差は、高収入ほど広がっていく!

先ほどは会社員としての収入が500万円の場合をシミュレートしました。
その条件で、総合課税と分離課税では40万円の差が出たわけですが、この差は高収入になればなるほど広がっていきます。
例として、会社員としての収入1,000万円、クラウドファンディングの収入500万円を考えてみましょう。
項目 | 総合課税の場合 | 分離課税の場合 |
収入 | 給与収入1,000万円+雑収入500万円=1,500万円 | 給与収入1,000万円+分離課税500万円=1,500万円 |
分離課税の徴収金額 | 0円 | 1,015,750円(500万円×20.315%) |
給与所得控除 | 2,200,000円 | 2,200,000円 |
社会保険料控除 | 1,107,000円 | 1,107,000円 |
基礎控除 | 380,000円 | 380,000円 |
課税所得 | 15,000,000-2,200,000-1,107,000-380,000=11,313,000円 | 10,000,000-2,200,000-1,107,000-380,000=6,313,000円 |
所得税 | 2,197,300円 | 835,100円 |
住民税 | 1,131,300円 | 631,300円 |
可処分所得(収入-社会保険-税金) | 15,000,000-1,107,000-2,197,300-1,131,300=10,564,400円 | 15,000,000-1,015,750-1,107,000-835,100-631,300=11,410,850円 |
この例では、実に可処分所得で約85万円の差が付くことになります。
総合課税と分離課税の負担差は、高収入ほど大きくなる。
FXが分離課税に変わった時の状況
ところで、そもそもなぜ株や投資信託の利益と異なり、クラウドファンディングの利益が総合課税になっているのでしょうか?
クラウドファンディング利益が総合課税になっている理由

実はその理由は、「法整備が追いついていない」という、身も蓋もない理由なのです。クラウドファンディング投資自体の歴史が浅く、まだ今は他の商品(株とか投資信託とか)に比べて市場規模が小さいため、クラウドファンディングのための法整備はまだ整っていないのです。
法整備が整っていないということは、クラウドファンディングの所得はどこの所得に入れるべきかが明確でないということ。明確ではない=その他の所得、ということで雑所得に入り、雑所得に入ったがために総合課税になっている、これが実状のようです。
FXは分離課税で大盛り上がり!

実は2011年まで、FXも同様の状況でした。「くりっく365」や「大証FX」などの取引所取引以外(民間のFX業者を介する取引のほぼ全て)は、2011年12月31日までは総合課税でした。
高レバレッジ可能なFXで総合課税というのは恐ろしい事で、もしもとある年に大当たりして数千万円の収入があった場合、その年の確定申告で所得税は数百万円、次の年の住民税も数百万円。この住民税は、次の年のFXで赤字が出てもお構いなしでのしかかってきます。この上さらに株や投信との損益通算ができず、過去のFX赤字と今のFX黒字の間で繰越控除もできないという三重苦。
2012年以降FXが分離課税になったことにより、FXでどれだけ大当たりしても税金は分離課税による20.315%で固定、さらに損益通算・繰越控除もできるようになりました。FXはこの税制変更により取引所外取引が盛んに行われ、業界全体が大盛り上がりしたのも頷けます。
投資型クラウドファンディングの税制が分離課税に変わったとしても、FXほどの一攫千金性はないためにFXほどの盛り上がりはないかもしれません。ですが、それでも前述のように税負担が少なくなることから、クラウドファンディングへの投資家の参入が加速することは間違いないと思います。
1.クラウドファンディングが総合課税になっているのは、法整備が追いついていないから
2.過去、FXは総合課税から分離課税に税制が変わった事で大きく盛り上がった
クラウドファンディングを分離課税にする動き
以上のような背景から、最近、クラウドファンディングを分離課税にする動きが静かに広がっているようです。
クラウドファンディング投資は、何に似ている?

ところで、そもそもクラウドファンディング投資というのは、既存の金融商品に当てはめると何に相当する投資なのでしょうか?
投資案件ごとに色々な特徴はあるのですが、この投資を簡潔に表現すれば「投資家から資金を集めて貸し付け、その利子を投資家に配分する」という事になります。この構造は一言で言えば「金貸し」。金融商品で言えば、「債券投資」に近いものではないかと思います。クラウドファンディングの場合は大会社の発行する債券と比べて信用が低く、その分利率が高い事を考えますと、さしずめ「ハイイールド債券」のカテゴリに入るのではないでしょうか。
クラウドファンディングが債券投資と同等と見なされるなら、債券投資の税制は2016年1月から分離課税になっていますので、クラウドファンディングが分離課税になってもおかしくはないでしょう。
その日はいつ来る?

FXの歴史を紐解けば、1998年に現在のひまわり証券が日本初のFX取引を開始しまして以来、13年後にFXの課税方式は分離課税になりました。
これを投資型クラウドファンディングにそのまま当てはめると、クラウドファンディングが分離課税になるのは2021~2022年という予想が立ちますが、もっと早く分離課税が実現できるよう、関係各所の努力に期待したいところです。